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広報普及IT委員会

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会活動報告

 広報普及IT委員 瀧本 一

 東京2020オリパラでのポリクリニック(選手村総合診療所)内における活動について報告いたします。
 オリパラの歴史の中で、鍼灸師が正式にポリクリニックに 配属されるのは今大会が初めてとなります。過去のオリパラでは、理学療法士やカイロプラクターがドライニードリング講習を受け、理学療法の一環として「はり治療」をおこなっ てきましたが、今大会では、日本の法制度に合わせて鍼灸師が「はり治療」、マッサージ師が「マッサージ」をおこなう流れとなりました。2016年に準備委員会が発足し、日鍼会・全鍼師会・東洋療法学校協会・全日本鍼灸学会の4団体の協力体制が合意され、組織委員会医療サービス部と協働して準備を進めてきました。われわれ一般会員は、ス ポーツ鍼灸トレーナー講習会(2018東京)スポーツ鍼灸 トレーナー実地研修会(2018松本マラソン)などを経て、参加申込みをおこない、さらにオンライン形式での面接(2019.11)を経て、スタッフ内定となりました。活 動に参加した鍼灸師は約90名。日鍼会会員は11名(はり 3名、マッサージ8名)でした。

 その後、新型コロナウイルスの影響でオリパラが延期となり、2021年5月よりeラーニング研修が開始されました。eラーニングではオリパラの歴史や会場、競技概要、各ボランティアの役割、救急医療各論(CRP・AED)、感染症対策、アンチドーピング、リーダーシップ研修、選手村での過ごし方など約87項目の多岐にわたる研修を受講し ました。内定者へはワクチン接種が推奨され、希望者には6 月より都庁での接種体制が用意され、7月からは市町村で優 先接種枠への追加がされました。

 私たちが活動したポリクリニックは選手村内の三階建て複合施設に入っおり、1Fがポリクリニック、ドーピングコントロールステーション、2Fは選手用のカジュアルダイニングやレクリエーションエリアとスタッフ用の食堂、3Fに は大規模なフィットネスセンターが設置されていました。ポ リクリニックには、診療部門(救急科・整形外科・放射線科・内科・歯科・眼科・女性アスリート科・皮膚科・精神科)・理学療法部門・薬剤部門・放射線部門・検査部門・看護部門が、 朝7時から夜11時まで二交代勤務(救急は24時間)で開設されました。受診希望者は、村内専用アプリでネット予約をし、クリニック入り口に設けられたスクリーニングエリアで簡易検査を経て来院します。患者情報は、ポリクリニック専用サーバ内の電子カルテシステムに集められ、アクセス権 を持つスタッフは、誰がいつどんな処置を受けたかが見られ るようになっていました。

 鍼灸師が所属する理学療法部門は、ポリクリニック内でも最大のスペースが用意され、PTのリハビリ室、アイスバススペース、はり・マッサージ室に別れ、多数の選手の治療、リハビリを一度におこなえるシステムとなっていました。は り・マッサージ室には、9台のベッド(個室3部屋)があり、一勤務あたり1名のはり師と8名のマッサージ師が配置 され、ドライニードリングとオイルマッサージを提供しまし た。はり、マッサージの受診者数は期間により大きく変化が ありましたが、少ない時期で2~30名/日、多い時期で6 ~70名/日、はりは平均して5~8名/日程度の受診がありました。期間を通して計2,064名(はり299名、マッ サージ1,765名)の受診者がありました。国籍はさまざまですが、自前の医療団を持たないアフリカや中東、中南米 などの受診が多い印象がありました。選手だけでなく、コーチやドクター、プレス、大会関係者などの受診も多く、私 が担当したのは約半数が選手以外の方でした。ほとんどの 方は英語を話せましたが、ロシア語・アラビア語・スペイ ン語などへは、「ポケトーク」という翻訳機を使って問診をおこないました。イスラム圏の女性の場合、男性施術者は NGな場合が多く、少ない女性スタッフでなんとかやりくりして施術をおこないました。

 今大会は、新型コロナ感染拡大による緊急事態宣言下で、 東京の感染者が急増したタイミングで始まったため、毎日P CR検査をおこない、施術ベッドも担当制で、万が一濃厚接触者となった場合に備えていました。ゴーグルやフェイ スシールド、マスク、手袋着用で施術に当たりました。常に器具や院内の清掃・消毒をおこない、スタッフ間や受診 者との会話も極力慎んで徹底した感染症対策をおこないな がらの活動でした。

 受診者の訴えは、主に筋骨格系の緊張や痛みで、単純にこり・疲労を改善してほしいといったものから、可動域改善、肉離れや捻挫の治療、腰痛などの他、不眠や不安、胃腸の不調や冷えの改善などの訴えもありました。主には緊張部位や関連部 位の筋肉への単刺・運動鍼・電気鍼をしましたが、訴えによっては、四肢や頭部・背部要穴への置鍼や擦過鍼・接触鍼(豪鍼による)もおこないました。選手には、「はり」をすると自分の体にどういった変化が起こるかが分かっている方が多く、「試合まであと〇日だから、影響が残らないようにしてほしい」とか、「ここはPTに治療してもらうから、 鍼ではここをお願い」といった風に具体的な要望がありました。パラリンピックでは、半身麻痺や盲目・四肢欠損の選手が来院されますが、カルテや事前情報からは、どういっ た障害を抱えているかが分からず、聞き取りや治療方針決定に時間がかかりました。日本のはり治療は、世界的に認知度が高いようで、たくさんの方から「一度日本のはりを受けてみたかった」「日本のはりは、痛みが少なく即効性が ある素晴らしい治療だ」と、お褒めの言葉をいただきました。 日常臨床では、自分で判断して治療部位や方法を決める私たちですが、ポリクリニックでは、医師のオーダーの元にはり治療をおこないました。選手とのコミュニケーションのなかで違う訴えが出たら、一度医師の判断を仰いでから再度施術というケースもありました。多職種と協働で施術にあたるケース もあり、例えばカイロプラクターや理学療法士のトリートメン トで取り切れなかった痛みを取ってほしいと依頼が来たり、逆 に鍼で不十分な所をマッサージ師や理学療法士に依頼したりと、職種の垣根を越えて患者さんについて話し合い、治療をおこなう経験は新鮮でした。また、担当の整形外科医師と話をするなかで、「はり」について興味を持っていただき、複数の医師へデモストレーションをおこなったり、エコーガイド下ではりの動きを観察したりして、はり治療への理解を深めてい ただくことができました。今回の貴重な経験は参加した鍼灸師のみならず、鍼灸業界・スポーツ業界にとって大きな財産になったと思います。得た経験から、次に繋がる活動へと広げていきたいと思います。

(広報普及IT委員会)

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